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1.8 Euclid空間上の実連続関数

Euclid空間 $\R^{m}$ の部分集合上で定義された実数を値に取る関数 $($単に実関数や実数値関数ともいう$)$ の連続性について整備します。与えられた関数が連続かどうかを定式化するための基本的な方法として

$\varepsilon\text{-}\delta$ 論法と呼ばれるノルム評価を軸にした定義
Euclid空間における開集合系を用いた定義
点列の収束性を用いた定義

の $3$ つが挙げられますが、ここでは $\varepsilon\text{-}\delta$ 論法による定義を軸に、残りをその同値な言い換えとして紹介することにします。

記号について、ここでは点 $a\in \R^{m}$ を中心とする半径 $r > 0$ の閉球体を $D_{r}(a), D(a, r)$ により表し、開球体は $O_{r}(a), O(a, r)$ により表すことにします。

1.8.1 実関数の極限
関数の極限の定義と性質

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとして、始域の点 $x\in A$ を特定の点 $a\in \R^{m}$ に「近づけていった」ときに関数の値 $f(x)$ がある値 $b\in [-\infty, +\infty]$ に「近づいていく」ということを極限として定式化します。$1$ つ注意として、点 $x$ を $A$ の中から $a\in \R^{m}$ に近づけていくためには $a$ が $A$ の触点である $($どんなに近くにも $A$ の点が存在する$)$ 必要があり、つまり、$a\in \overline{A}$ であることを極限を考えるための前提条件とします。

定義1.8.1
(実関数の極限)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ を考え、点 $a\in \overline{A}$ を取る。

(1) 点 $x$ を $($$A$ 内で$)$ $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in \R$ である $($$f(x)$ が $b\in \R$ に収束する$)$ とは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対してつまり、任意の $x\in A\cap O_{\delta}(a)$ に対して。\[|f(x) - b| < \varepsilon\]を満たすこととと定め、記号としては\[\lim_{x\to a}f(x) = b,\]\[f(x)\to b \ (x\to a)\]などと書く。
(2) 点 $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $+\infty$ である $($$f(x)$ が正の無限大に発散する$)$ とは、任意の実数 $M\in \R$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して\[f(x) > M\]を満たすこととと定め、記号としては\[\lim_{x\to a}f(x) = +\infty,\]\[f(x)\to +\infty \ (x\to a)\]などと書く。$+\infty$ の符号は省略することがある。
(3) 点 $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $-\infty$ である $($$f(x)$ が負の無限大に発散する$)$ とは、任意の実数 $M\in \R$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して\[f(x) < M\]を満たすこととと定め、記号としては\[\lim_{x\to a}f(x) = -\infty,\]\[f(x)\to -\infty \ (x\to a)\]などと書く。
(4) 以上の定義における $b\in [-\infty, +\infty]$ を極限値といい、$b\in \R$ の場合については収束値ともいう。
補足1.8.2

(a) $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in [-\infty, \infty]$ であるとき、$f(x)$ は極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ を持つといったり、単に極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立するといったりします。また、極限値を明示せずに極限を持つ、極限が存在するなどということもあります。
(b) このあとの命題1.8.3から極限値は存在すれば一意であり、極限が存在する場合には記号 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が値として意味を持つことになります。そして $a\in A$ の場合、極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が存在すればその極限値は $f(a)$ に限ります。
(c) $a\in \overline{A}$ への近づけ方を制限して考えることもあります。$a\in \overline{B}$ を満たす部分集合 $B\subset A$ について、点 $x$ を $B$ 内で $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in \R$ であるとは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in B$ に対して\[|f(x) - b| < \varepsilon\]を満たすこととと定め、記号としては\[\lim_{x\to a, \ x\in B}f(x) = b,\]\[f(x)\to b \ (x\to a, \ x\in B)\]などと書きます。また、$x$ に関する特定の条件 $P(x)$ を満たしながら近づけたときの極限というのも $B := \{x\in A\mid P(x)\}$ 内で近づけたときの極限として定義でき $($もちろん $a\in \overline{B}$ である必要はある$)$、記号としては $\underset{x\to a, \ P(x)}{\lim}f(x) = b$ などと表すことにします。
(d) 定義は[杉浦 解析入門]を参考にしています。ここでの $\underset{x\to a, x\neq a}{\lim}f(x)$ の意味で極限を定義し、それを $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ と表すテキストも多いので注意。また、そちらの流儀では近づけていく先の点 $a$ は $a\in \overline{A\setminus \{a\}}$ を満たす、つまりは $A$ の集積点である必要があります。

極限の性質として明らかなこと、極限が関数の局所的な値のみで $($極限の存在も含めて$)$ 決定されることを確かめておきます。

命題1.8.3

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ と点 $a\in \overline{A}$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b\in [-\infty, \infty]$ が成立しているとする。

(1) $c\in [-\infty, \infty]$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = c$ が成立するならば $b = c$ である。つまり、極限値は存在すれば一意である。
(2) 任意の部分集合 $B\subset A$ に対して $a\in \overline{B}$ ならば極限 $\underset{x\to a, \ x\in B}{\lim}f(x) = b$ が成立する。
(3) 実関数 $g : A\to \R$ が与えられ、ある正実数 $r > 0$ が存在して $f|_{A\cap O(a, r)} = g|_{A\cap O(a, r)}$ が成立したとすれば極限 $\underset{x\to a}{\lim}g(x) = b$ が成立する。
証明

(1) $b, c\in \R$ の場合に $b = c$ であることを示します。極限の定義より任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f(x) - b|, |f(x) - c| < \dfrac{\varepsilon}{2}$ となりますが、$a\in \overline{A}$ より実際にそのような点を取ることで $|b - c| < \varepsilon$ が従います。よって、$\varepsilon$ 任意より $b = c$ です。

あとは $b\in \R$ のときに $c = \pm\infty$ とはなりえないことは、および、$b = \pm\infty$ のときに $b = c$ であることを示せばよいですが、それは容易です。

(2) 明らか。

(3) $b\in \R$ の場合のみ示します。$b = \pm\infty$ の場合も同様に証明されます。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$f$ についての極限が $b$ であることから、正実数 $\delta > 0$ であって $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f(x) - b| < \varepsilon$ を満たすものが存在します。必要であれば $\delta < r$ となるように小さく取り直せば、その $\delta$ について $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|g(x) - b| = |f(x) - b| < \varepsilon$ が成立します。よって、$\underset{x\to a}{\lim}g(x) = b$ です。

次は極限の定義の言い換えを与えます。

命題1.8.4
(極限に関する同値条件)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとし、点 $a\in \overline{A}$, $b\in \R$ を取る。このとき、次は同値である。

(1) 極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立する。
(2) 任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対し、ある正実数 $\delta > 0$ であって\[A\cap O_{\delta}(a)\subset f^{-1}((b - \varepsilon, b + \varepsilon))\]となるものが存在する。
(3) 点 $a\in \overline{A}$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$ が成立する。

また、$b = \pm\infty$ の場合でも(1)と(3)は同値である(2)も少し修正すれば同値になりますがさぼります。

証明

$b\in \R$ の場合のみ示します。

(1) ⇒ (2) 正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。(1)からある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f(x) - b| < \varepsilon$ が成立します。つまり、任意の $x\in A\cap O_{\delta}(a)$ に対して $f(x)\in (b - \varepsilon, b + \varepsilon)$ であり、$A\cap O_{\delta}(a)\subset f^{-1}((b - \varepsilon, b + \varepsilon))$ が成立します。

(2) ⇒ (3) $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $A$ の点列であって点 $a\in \overline{A}$ に収束するものとし、正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。(2)よりある正実数 $\delta > 0$ が存在して $A\cap O_{\delta}(a)\subset f^{-1}((b - \varepsilon, b + \varepsilon))$ が成立します。この $\delta$ に対して非負整数 $N$ であって $n > N$ ならば $x_{n}\in A\cap O_{\delta}(a)$ となるものを取れば、$n > N$ に対して $f(x_{n})\in (b - \varepsilon, b + \varepsilon) \ (\Leftrightarrow |f(x_{n}) - b| < \varepsilon)$ です。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$ です。

(3) ⇒ (1) 対偶を示します。極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ は成立していないとします。このとき、ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の正実数 $\delta > 0$ に対して $\|x - a\| < \delta$ かつ $|f(x) - b|\geq \varepsilon$ となる $x\in A$ が存在します。各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $\delta = n^{-1}$ としてそのような $x_{n}$ を取るとすれば点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N_{+}}$ は $a\in \overline{A}$ に収束し、常に $|f(x_{n}) - b|\geq \varepsilon$ を満たします。よって、この数列に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$ は成立しません。

部分集合 $A\subset \R^{m}$ で定義されて実関数にはその定数倍 $($スカラー倍ともいう$)$ や関数どうしの和や積が定義されます。実数 $t\in \R$ と実関数 $f : A\to \R$ に対して $f$ の $t$ 倍 $tf$ が\[tf : A\to \R : x\mapsto t\cdot f(x)\]により定義され、実関数 $f, g : A\to \R$ に対してその和 $f + g$ と積 $fg$ が\[f + g : A\to \R : x\mapsto f(x) + g(x),\]\[fg : A\to \R : x\mapsto f(x)g(x)\]により定義されます。そして、実関数の極限はこれらの演算に関して次を満たします。

命題1.8.5
(関数に関する演算と極限との可換性)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f, g : A\to \R$ が与えられ、点 $a\in \overline{A}$ と $b, c\in [-\infty, +\infty]$ に対して極限\[\lim_{x\to a}f(x) = b, \quad \lim_{x\to a}g(x) = c\]が成立するとする。このとき、次が成立する。ただし、それぞれの右辺は定義されていることは仮定する$tb$ が $0\cdot (\pm\infty)$ になったり、$b + c$ が $(\pm\infty) + (\mp\infty)$ になったりしない、つまり、不定形が現れないということ。

(1) 実数 $t\in \R$ に対して関数 $tf$ は極限 $\underset{x\to a}{\lim}(tf)(x) = tb$ を持つ。
(2) 関数 $f + g$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}(f + g)(x) = b + c$ が成立する。
(3) 関数 $fg$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}(fg)(x) = bc$ が成立する。
(4) $c\neq 0$ であるとき、$A' = \{x\in A\mid g(x)\neq 0\}$ とおけば極限 $\underset{x\to a, \ x\in A'}{\lim}\tfrac{f(x)}{g(x)} = \tfrac{b}{c}$ が成立する。
証明

(1) 容易です。

(2) $a\in \overline{A}$ に収束する点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を取ります。命題1.8.4より $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$, $\underset{n\to\infty}{\lim}g(x_{n}) = c$ であり、$b + c$ が定義されていることから和と極限の可換性 $($命題1.5.16$)$ を用いて\[\lim_{n\to\infty}(f + g)(x_{n}) = \lim_{n\to\infty}f(x_{n}) + \lim_{n\to\infty}g(x_{n}) = b + c\]です。再び命題1.8.4より $\underset{x\to a}{\lim}(f + g)(x) = b + c$ です。

(3) (2)と同じです。

(4) (3)より $f\equiv 1$ の場合に示せばよいですが、これも(2)と同様にして分かります。

関数の特殊な極限

始域が区間など $\R$ の部分集合の場合、始域の点を正負の無限大に近づけていく極限もよく現れます。

定義1.8.6
(無限大に近づけていく極限)

部分集合 $A\subset \R$ を始域とする実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとする。

(1) 任意の $N\in \R$ に対して $x > N$ を満たす $x\in A$ が存在するとする言い換えると $\sup A = +\infty$ が成立するということ。。点 $x$ を正の無限大 $+\infty$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in \R$ であるとは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある実数 $N\in \R$ が存在し、$x > N$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f(x) - b| < \varepsilon$ が成立することと定め、\[\lim_{x\to +\infty}f(x) = b\]と表す。
(2) 任意の $N\in \R$ に対して $x < N$ を満たす $x\in A$ が存在するとする言い換えると $\inf A = -\infty$ が成立するということ。。点 $x$ を負の無限大 $-\infty$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in \R$ であるとは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある実数 $N\in \R$ が存在し、$x < N$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f(x) - b| < \varepsilon$ が成立することと定め、\[\lim_{x\to -\infty}f(x) = b\]と表す。

極限が正負の無限大に発散する場合も定義1.8.1と同様に定義する。

同じく始域が $\R$ の部分集合である場合、始域の点をある実数に近づけていく方法として、左右のどちらか一方から近づけることもそれなりよくあります。

定義1.8.7
(右極限と左極限)

部分集合 $A\subset \R$ を始域とする実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとする。

(1) 点 $a\in \R$ が与えられ、$a\in \overline{\{x\in A\mid x > a\}}$ を満たすとする。点 $x$ を $a$ に右から近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in [-\infty, +\infty]$ であるとは、極限\[\underset{x\to a, \ x > a}{\lim}f(x) = b\]が成立することと定め、ここでは $\underset{x\to a + 0}{\lim}f(x) = b$ とも表す。$a = 0$ の場合は $\underset{x\to +0}{\lim}f(x) = b$ とも表す。この極限のことを右極限という。
(2) 点 $a\in \R$ が与えられ、$a\in \overline{\{x\in A\mid x < a\}}$ を満たすとする。点 $x$ を $a$ に左から近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in [-\infty, +\infty]$ であるとは、極限\[\underset{x\to a, \ x < a}{\lim}f(x) = b\]が成立することと定め、ここでは $\underset{x\to a - 0}{\lim}f(x) = b$ とも表す。$a = 0$ の場合は $\underset{x\to -0}{\lim}f(x) = b$ とも表す。この極限のことを左極限という。
(3) 右極限と左極限を総称して片側極限という。

次は近づけていく先の点の周りにおける関数の挙動を上下から評価する際によく現れます。

補足1.8.8
(上極限と下極限)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ を始域とする実関数 $f : A\to \R$ を考え、点 $a\in \overline{A}$ を取る。

(1) 点 $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の上極限 $\underset{x\to a}{\varlimsup}f(x)$ を\[\varlimsup_{x\to a}f(x) := \lim_{r\to +0}\sup_{x\in A\cap O(a, r)}f(x)\]と定める。
(2) 点 $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の下極限 $\underset{x\to a}{\varliminf}f(x)$ を\[\varliminf_{x\to a}f(x) := \lim_{r\to +0}\inf_{x\in A\cap O(a, r)}f(x)\]と定める。
補足1.8.9

(a) もちろん、無限大に近づけていく極限、左右極限、上下極限は存在すれば一意であり、記号\[\lim_{x\to +\infty}f(x), \quad \lim_{x\to a + 0}f(x), \quad \varliminf_{x\to a}f(x)\]などは極限が存在すれば値として意味を持ちます。
(b) 上極限は必ず存在し、それは $\underset{x\in A\cap O(a, r)}{\sup}f(x)$ が $r$ に関して単調であることから容易に示されます。また、上極限は $\underset{r > 0}{\inf}\underset{x\in A\cap O(a, r)}{\sup}f(x)$ に等しいです。同様に下極限も必ず存在して $\underset{r > 0}{\sup}\underset{x\in A\cap O(a, r)}{\inf}f(x)$ に等しいです。

上下極限について基本的な性質を挙げておきます。(証明は省略します。)

命題1.8.10

部分集合 $A\subset \R^{m}$ を始域とする実関数 $f, g : A\to \R$ が与えられたとする。点 $a\in \overline{A}$ と $b\in [-\infty, +\infty]$ に対して次は同値である。

(1) 極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立する。
(2) 極限 $\underset{x\to a}{\varlimsup}f(x) = \underset{x\to a}{\varliminf}f(x) = b$ が成立する。
命題1.8.11

部分集合 $A\subset \R^{m}$ を始域とする実関数 $f, g : A\to \R$ と点 $a\in \overline{A}$ を取る。次が成立する。

(1) $\underset{x\to a}{\varliminf}f(x)\leq \underset{x\to a}{\varlimsup}f(x)$.
(2) $\underset{x\to a}{\varlimsup}(-f(x)) = -\underset{x\to a}{\varliminf}f(x)$.
(3) $\underset{x\to a}{\varlimsup}(f(x) + g(x))\leq \underset{x\to a}{\varlimsup}f(x) + \underset{x\to a}{\varlimsup}g(x)$.
(4) $\underset{x\to a}{\varliminf}(f(x) + g(x))\geq \underset{x\to a}{\varliminf}f(x) + \underset{x\to a}{\varliminf}g(x)$.
1.8.2 実連続関数
連続性

関数の連続性を定義します。

定義1.8.12
(連続関数)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ を始域とする実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとする。

(1) 実関数 $f$ が点 $a\in A$ において連続であるとは、極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が存在することと定める。
(2) 実関数 $f$ が連続関数である $($もしくは単に連続である$)$ とは、$A$ の各点において $f$ が連続であることと定める。
(3) ここでは $A$ 上で定義された実連続関数全体からなる集合を $C(A, \R)$ や $C(A)$ と書くことにする。
例1.8.13
(連続・不連続の例)

(a) 関数 $f : \R\to \R$ を実数 $\alpha, \beta\in \R$ を用いて $f(x) := \alpha x + \beta$ と定めると連続関数です。
(b) 指数関数 $e^{x}$、対数関数 $\log x$、三角関数 $\sin x, \cos x, \tan x$ はそれぞれ $($定義されている範囲で$)$ 連続関数です。
(c) 関数 $f : \R\to \R$ を\[f(x) := \left\{\begin{array}{ll}1 & (x\geq 0) \\0 & (x < 0)\end{array}\right.\]と定めると $x = 0$ において不連続です。
(d) 関数 $f : \R^{2}\to \R$ を\[f(x, y) := \left\{\begin{array}{ll}\tfrac{xy}{x^{2} + y^{2}} & ((x, y)\neq (0, 0)) \\0 & ((x, y) = (0, 0))\end{array}\right.\]と定めると $(x, y) = (0, 0)$ において不連続です。
証明

(a) $a\in \R$ を取り、この点における $f$ の連続性を示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。正実数 $\delta > 0$ を $\alpha\neq 0$ ならば $\delta := \varepsilon\cdot |\alpha|^{-1}$ と定め、$\alpha = 0$ ならば $\delta := 1$ と定めます。このとき、任意の $x\in \R$ に対して $|x - a| < \delta$ ならば $|f(x) - f(a)| = |\alpha(x - a)| < \varepsilon$ です。よって、$f$ は $a$ において連続です。

(b) 常識的な事実ですが、まだ導入していない関数たちなので省略。そして、それぞれ導入するときには連続性くらいのことは自明になっているはずです。

(c) 一般に $\R$ 上で定義された関数 $f(x)$ が $x = a$ において不連続性であることを示すには、極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が存在することの対偶として、ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の正実数 $\delta > 0$ に対してある $x\in \R$ が存在して $|x - a| < \delta$ かつ $|f(x) - f(a)|\geq \varepsilon$ となることを示せばよいです。

$\varepsilon := 1/2$ とし、任意に正実数 $\delta > 0$ を取ります。$x = -\delta/2$ に対して $|x - 0| < \delta$ かつ $|f(x) - f(0)| = 1\geq \varepsilon$ です。よって、$x = 0$ において不連続です。

(d) $\varepsilon := 1/3$ とし、任意に正実数 $\delta > 0$ を取ります。$x = y = \delta/2\sqrt{2}$ に対して $\|(x, y) - (0, 0)\| < \delta$ かつ $|f(x, y) - f(0, 0)| = 1/2\geq \varepsilon$ です。よって、$(x, y) = (0, 0)$ において不連続です。

例1.8.14
(Dirichlet関数)

関数 $f : \R\to \R$ を\[f(x) := \left\{\begin{array}{ll}1 & (x\in \Q) \\0 & (x\notin \Q)\end{array}\right.\]と定め、これをDirichlet関数といいます。これは全ての $x\in \R$ において不連続です。

証明

$a\in \Q$ において不連続なことは、$a$ のいくらでも近くに無理数 $x$ が存在して $|f(x) - f(a)| = 1$ となることから分かります。$a\in \R\setminus \Q$ において不連続なことも同様です。

例1.8.15
(Thomae関数)

関数 $f : \R\to \R$ を\[f(x) := \left\{\begin{array}{ll}(\min\{q\in \Np\mid xq\in \Z\})^{-1} & (x\in \Q) \\0 & (x\notin \Q)\end{array}\right.\]と定めよくある表示から変えてみましたが、$x\in \Q$ の場合は $x$ を既約分数 $p/q \ (q > 0)$ の形に表して $f(x) := 1/q$ と定めています。、これをThomae関数といいます。これは $x\in \Q$ において不連続ですが、$x\in \R\setminus \Q$ においては連続です。

証明

$a\in \Q$ において不連続なことは、$a$ のいくらでも近くに無理数 $x$ が存在して $|f(x) - f(a)| = |f(a)| > 0$ となることから分かります。$a\in \R\setminus \Q$ において連続なことを示します。任意に正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。正整数 $n\in \Np$ を $\tfrac{1}{n} < \varepsilon$ に取ります。$\delta := \min \{|a - \tfrac{k}{n!}|\mid k\in \Z\}$ と定めます。$\delta > 0$ です。任意の $x\in \R$ に対して $|x - a| < \delta$ ならば $|f(x) - f(a)| = |f(x)| < \tfrac{1}{n} < \varepsilon$ です$x$ は整数 $k$ を用いて $y = k/n!$ と表すことはできないので、特に、どの $1\leq m\leq n$ に対しても整数 $l$ を用いて $x = l/m$ と表すことはできません。ここで $f$ の定義を見れば $f(x) < 1/n$ が分かります。。よって、$f$ は $a$ において連続です。

いま、各点における連続性を単に極限の存在から定義したので、極限の定義の言い換え $($命題1.8.4$)$ から直ちに各点での連続性の定義の言い換えが得られます。そして、関数自体の連続性についてもそれに近い次の形で言い換えが成立します。

命題1.8.16
(連続性の同値条件)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ について次は同値である。

(1) $f$ は連続である。
(2) $\R$ の任意の開集合 $V$ に対し、その逆像 $f^{-1}(V)$ は $\R^{m}$ のある開集合 $U$ と始域 $A$ の共通部分 $A\cap U$ に一致する。
(3) 任意の点 $a\in A$ と $a$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = f(a)$ が成立する。$($このとき、$f$ は点列連続であるという。$)$
証明

(1) ⇒ (2) $V$ を $\R$ の開集合とします。各点 $a\in f^{-1}(V)$ に対して $(f(a) - \varepsilon_{a}, f(a) + \varepsilon_{a})\subset V$ となる正実数 $\varepsilon_{a} > 0$ を固定し、この $\varepsilon_{a}$ に対して正整数 $\delta_{a} > 0$ であって $x\in A\cap O_{\delta_{a}}(a)$ ならば $|f(x) - f(a)| < \varepsilon_{a}$ となるものを取ります。このとき、各 $a\in f^{-1}(V)$ に対して $A\cap O_{\delta_{a}}(a)\subset f^{-1}(V)$ なので\[A\cap\left(\bigcup_{a\in f^{-1}(V)}O_{\delta_{a}}(a)\right) = \bigcup_{a\in f^{-1}(V)}(A\cup O_{\delta_{a}}(a))\subset f^{-1}(V)\]が従い、明らかに逆の包含関係も成立するので $A\cap\left(\bigcup_{a\in f^{-1}(V)}O_{\delta_{a}}(a)\right) = f^{-1}(V)$ です。よって、$U := \bigcup_{a\in f^{-1}(V)}O_{\delta_{a}}(a)$ が欲しかった開集合です。

(2) ⇒ (3) $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $A$ の点列であってある点 $a\in A$ に収束するものとします。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。仮定よりあるある開集合 $U$ が存在して $A\cap U = f^{-1}((f(a) - \varepsilon, f(a) + \varepsilon))$ が成立します。$O_{\delta}(a)\subset U$ となるような正実数 $\delta > 0$ を固定します。この $\delta$ に対して非負整数 $N$ であって $n > N$ ならば $x_{n}\in A\cap O_{\delta}(a)$ となるものを取れば、$n > N$ において $f(x_{n})\in (f(a) - \varepsilon, f(a) + \varepsilon)$ です。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = f(a)$ です。

(3) ⇒ (1) $a\in A$ を固定します。$a$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して仮定より極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = f(a)$ が成立するので、命題1.8.4より $f$ は $a$ において連続です。$a\in A$ は任意なので $f$ は連続です。

特殊な連続性

いくつか特殊な連続性について導入しておきます。(証明は省略します。)

まずは右連続と左連続から。

定義1.8.17
(右連続と左連続)

区間 $J\subset \R$ 上で定義された実関数 $f : J\to \R$ が与えられたとする。

(1) 実関数 $f$ が点 $a\in J$ において右連続であるとは極限 $\underset{x\to a, \ a\leq x}{\lim}f(x)$ が存在することと定める。
(2) 実関数 $f$ が点 $a\in J$ において左連続であるとは極限 $\underset{x\to a, \ x\leq a}{\lim}f(x)$ が存在することと定める。
(3) 実関数 $f$ が右連続であるとは $f$ が各点において右連続であることと定める。
(4) 実関数 $f$ が左連続であるとは $f$ が各点において左連続であることと定める。
命題1.8.18

右開の区間 $J\subset \R$ 上で定義された実関数 $f : J\to \R$ と点 $a\in J$ が与えられたとする。次は同値である。

(1) 実関数 $f$ は点 $a\in J$ において右連続である。
(2) 右極限 $\underset{x\to a + 0}{\lim}f(x) = f(a)$ が成立する細かいことですが、点 $a$ が区間 $J$ の右端点だとここの右極限をそもそも考えられない不都合があるので、前提として始域の区間を右開としています。

左連続性についても同様の同値条件が成立する。

命題1.8.19

区間 $J\subset \R$ 上で定義された実関数 $f : J\to \R$ と点 $a\in J$ が与えられたとする。次は同値である。

(1) 実関数 $f$ は点 $a\in J$ において連続である。
(2) 実関数 $f$ は点 $a\in J$ において右連続かつ左連続である。

続いて上半連続と下半連続について。

定義1.8.20
(上半連続と下半連続)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ が与えられたとする。

(1) 実関数 $f$ が点 $a\in A$ において上半連続であるとは極限\[\varlimsup_{x\to a}f(x) = f(a)\]が成立することと定める。
(2) 実関数 $f$ が点 $a\in A$ において下半連続であるとは極限\[\varliminf_{x\to a}f(x) = f(a)\]が成立することと定める。
(3) 実関数 $f$ が上半連続であるとは $f$ が各点において上半連続であることと定める。
(4) 実関数 $f$ が下半連続であるとは $f$ が各点において下半連続であることと定める。
補足1.8.21
(半連続性の定義に関する注意)

ここでの極限の流儀に従うとすれば\[\varlimsup_{x\to a}f(x) = f(a)\Leftrightarrow \varlimsup_{x\to a}f(x)\leq f(a)\Leftrightarrow \varlimsup_{x\to a, \ x\neq a}f(x)\leq f(a)\]が成立しますが細かいことですが、厳密には後者の同値条件のために点 $a$ が $A$ の集積点である必要が生じています。、これらは $\underset{x\to a, \ x\neq a}{\varlimsup}f(x) = f(a)$ と同値ではありません。大抵のテキストでは極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ をここでの $\underset{x\to a, \ x\neq a}{\lim}f(x)$ の意味で考えるため、上半連続性は\[\varlimsup_{x\to a}f(x)\leq f(a)\]が成立することにより定義されます。そして、もしそちらの流儀で上半連続性を $\underset{x\to a}{\varlimsup}f(x) = f(a)$ のことと解釈すると誤りになります。

ここでの流儀を取る場合、上半連続性を表面的に全く同じ不等号を用いた\[\varlimsup_{x\to a}f(x)\leq f(a)\]の形で定義できるので、慣習とのずれによる混乱を避けるためにもこちらの形で覚えておくのがよいでしょう。(まあ、それはそれで焦って不等号の向きを間違えたりとかしょうもない混乱のもとなんですが。)

もちろん、下半連続性についても同様です。

命題1.8.22

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義された実関数 $f : A\to \R$ と点 $a\in A$ が与えられたとする。次は同値である。

(1) 実関数 $f$ は点 $a\in A$ において連続である。
(2) 実関数 $f$ は点 $a\in A$ において上半連続かつ下半連続である。
連続関数の空間

命題1.8.5から直ちに連続関数のスカラー倍や連続関数どうしの和・積がまた連続関数を与えることが従います。つまり、連続関数の空間 $C(A)$ はそれらの操作に関して閉じており、写像\[\R\times C(A)\to C(A) : (t, f)\mapsto tf,\]\[C(A)\times C(A)\to C(A) : (f, g)\mapsto f + g,\]\[C(A)\times C(A)\to C(A) : (f, g)\mapsto fg\]が定まります。

命題1.8.23

$A\subset \R^{m}$ とする。次が成立する。

(1) 任意の $t\in \R$ と $f\in C(A)$ に対して $tf\in C(A)$ である。
(2) 任意の $f, g\in C(A)$ に対して $f + g\in C(A)$ である。
(3) 任意の $f, g\in C(A)$ に対して $fg\in C(A)$ である。
(4) 任意の $f, g\in C(A)$ に対して $g$ が常に $0$ を値に取らないならば $f/g\in C(A)$ である。
証明

命題1.8.5より明らかです。例えば(2)について示すとすれば、連続関数 $f, g\in C(A)$ を固定したとき、任意の $a\in A$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = f(a)$, $\underset{x\to a}{\lim}g(x) = g(a)$ が成立するので命題1.8.5より $\underset{x\to a}{\lim}(f + g)(x) = f(a) + g(a) = (f + g)(a)$ が成立し、$f + g$ は連続と分かります。

例1.8.24
(実係数多項式関数の連続性)

実係数多項式 $f(x) = \sum_{k = 0}^{n}a_{k}x^{k}$ により定義される関数 $f : \R\to \R : x\mapsto f(x)$ は連続です。$1$ 次関数については例1.8.13よりよく、よって、命題1.8.23から $f(x) = x^{k}$ の場合、$f(x) = a_{k}x^{k}$ の場合、$f(x) = \sum_{k = 0}^{n}a_{k}x^{k}$ の場合と順に連続性が確かめられます。多変数で考えても全く同様です。

また、直接評価によっても連続性を示すことができます。$f(x) = \sum_{k = 0}^{n}a_{k}x^{k}$ について、各 $a\in \R$ での連続性を示せば十分です。$M := \max\{|a_{0}|, \dots, |a_{n}|, (|a| + 1)^{n - 1}\}$ とおきます。このとき、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して $|x - a| < \min\{\varepsilon/(nM)^{2}, 1\}$ ならば\begin{eqnarray*}|f(x) - f(a)| & = & \left| \sum_{k = 0}^{n}a_{k}(x^{n} - a^{n})\right| \leq \sum_{k = 1}^{n}|a_{k}||x - a|\left|\sum_{i = 0}^{k - 1}x^{i}a^{k - 1 - i}\right| \\& \leq & \sum_{k = 1}^{n}|a_{k}||x - a|\cdot k\cdot (|a| + 1)^{n - 1}\leq n^{2}M^{2}|x - a| < \varepsilon\end{eqnarray*}であり、$a$ において連続です。

補足1.8.25
(連続関数の空間の線型性)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上の実連続関数全体からなる空間 $C(A)$ や、実係数多項式関数全体からなる空間はいずれも実線型空間の定義の条件 $($定義1.7.1$)$ を満たし、実線型空間になります。

コンパクト性と最大値・最小値の原理

空でないコンパクト部分集合において定義された実連続関数は最大値と最小値を持ち、特に有界であることが分かります。

定理1.8.26
(最大値・最小値の原理)

$K\subset \R^{m}$ を空でないコンパクト集合とする。このとき、$K$ において定義された実連続関数 $f : K\to \R$ は最大値と最小値を持つ。

証明

定理1.7.30より $K$ は有界閉集合として示せばよいです。また、最大値についてのみ示します。最小値でも一緒です。

$s = \sup f(K)$ とします。まずは $s\neq +\infty$ を背理法より示します。$s = +\infty$ とします。このとき、$K$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in \N}$ であって常に $f(x_{n}) > n$ となるものを取ることができ、$K$ が有界なのでBolzano–Weierstrassの定理 $($定理1.7.13$)$ を用いてある点 $a\in \R^{m}$ に収束する部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in \N}$ が取れます。$K$ が閉集合なので $a\in K$ であり、$f$ の連続性から $\underset{k\to\infty}{\lim}f(x_{n_{k}}) = f(a)\in \R$ が成立しますが、これは点列の構成から $\underset{k\to\infty}{\lim}f(x_{n_{k}}) = +\infty$ であることに矛盾です。よって、$s = \sup f(K)\in \R$ です。

よって、$K$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in \N_{+}}$ であって常に $s - n^{-1} < f(x_{n})\leq s$ を満たすものを取ることができます。その部分列であってある点 $a$ に収束するもの $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を取れば $f$ の連続性より $s = \underset{k\to\infty}{\lim}f(x_{n_{k}}) = f(a)$ です。よって、$f(K)$ の上限に一致する値を取る点 $a$ が得られ、つまり、この $a$ において $f$ は最大値を取ります。

系1.8.27
(コンパクト集合上の実連続関数の有界性)

$K\subset \R^{m}$ をコンパクト集合とする。このとき、$K$ において定義された実連続関数 $f : K\to \R$ は有界である。

連結性と中間値の原理

連結部分集合上で定義された実連続関数に対して次の中間値の定理が示されます。これは連結部分集合の連続像がまた連結部分集合になるという一般的に成立する事実の特別な場合です。

定理1.8.28
(中間値の定理)

$A\subset \R^{m}$ を連結部分集合とし $f : A\to \R$ を実連続関数とする。また、$a, b\in A$ を任意に固定する。$f(a)$ と $f(b)$ の間にある任意の実数 $d$ に対してある $A$ の点 $c$ が存在して $f(c) = d$ が成立する。

証明

$f(a) < f(b)$ として $[f(a), f(b)]\subset f(A)$ を示せばよいです。ある $f(a) < d < f(b)$ であって $d\notin f(A)$ となるものが存在したとします。開集合 $U, V$ を $A\cap U = f^{-1}((-\infty, d))$, $A\cap V = f^{-1}((d, +\infty))$ であるように取ります。このとき、$a\in U$, $b\in V$ であり $A\cap U\neq \varnothing$, $A\cap V\neq \varnothing$ です。また、$A\cap U\cap V = \varnothing$ も明らかです。そして、$f^{-1}(d) = \varnothing$ なので $A\subset f^{-1}(\R\setminus \{d\})\subset U\cup V$ です。これは $A$ が連結であることに矛盾します。よって、$[f(a), f(b)]\subset f(A)$ です。

系1.8.29
(有界閉区間の連続像は有界閉区間)

$J$ を実数体 $\R$ の部分集合、$f : J\to \R$ を連続関数とする。次が成立する。

(1) $J$ が区間ならば像 $\Img f$ も区間である。
(2) $J$ が有界閉区間ならば像 $\Img f$ も有界閉区間である。
証明

(1) 区間は連結です $($補題1.7.32$)$。よって、任意の $c\leq d\in \Img f$ に対して $c = f(a)$, $d = f(b)$ をとなる $a, b\in J$ を取ることができ、中間値の定理 $($定理1.8.28$)$ より $[c, d] = [f(a), f(b)]\subset \Img f$ です。よって、補題1.7.32より $J$ は区間です。

(2) 有界閉区間は空でないコンパクト集合なので定理1.8.26より $f$ には最小値 $a$ と最大値 $b$ が存在し、$\Img f = [a, b]$ です。これは有界閉区間です。

1.8.3 ベクトル値連続関数

関数の終域として $\R^{l}$ を考えることも多く、そのような関数をベクトル値関数と呼びます。このベクトル値関数に対しては次のようにして極限や連続性を定義します。$($もちろん、$l = 1$ の場合には実関数として考えてきたものに一致します$)$

定義1.8.30

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ が与えられたとする。

(1) 点 $a\in \overline{A}$ について、点 $x$ を $a$ に近づけたときの $f(x)$ の極限が $b\in \R^{l}$ である $($$f(x)$ が $b\in \R^{l}$ に収束する$)$ とは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対し\[\|f(x) - b\| < \varepsilon\]を満たすこととと定め、記号としては\[\lim_{x\to a}f(x) = b,\]\[f(x)\to b \ (x\to a)\]などと書く。
(2) ベクトル値関数 $f$ が点 $a\in A$ において連続であるとは、極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が存在することと定める。
(3) ベクトル値関数 $f$ が連続関数である $($もしくは単に連続である$)$ とは、$A$ の各点において $f$ が連続であることと定める。$A$ 上で定義された $\R^{l}$ を終域とする連続関数全体からなる集合を $C(A, \R^{l})$ と書くとする。

ベクトル値関数についての極限や連続性は実関数の場合と全く同じように整備されます。

命題1.8.31
(極限に関する同値条件(ベクトル値))

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ が与えられたとし、点 $a\in \overline{A}$, $b\in \R^{l}$ を取る。このとき、次は同値である。

(1) 極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立する。
(2) 任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対し、ある正実数 $\delta > 0$ であって\[A\cap O_{\delta, \R^{m}}(a)\subset f^{-1}(O_{\varepsilon, \R^{l}}(b))\]となるものが存在する。
(3) 点 $a\in \overline{A}$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$ が成立する。
証明

命題1.8.4と全く同じです。

命題1.8.32
(連続性の同値条件(ベクトル値))

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ について次は同値である。

(1) $f$ は連続である。
(2) $\R^{l}$ の任意の開集合 $V$ に対し、その逆像 $f^{-1}(V)$ は $\R^{m}$ のある開集合 $U$ と始域 $A$ の共通部分 $A\cap U$ に一致する。
(3) $A$ の点 $a$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = f(a)$ が成立する。
証明

命題1.8.16と全く同じです。

極限や連続性に関するもう一つの重要な言い換えとして、成分ごとの表示に関するものがあります。$\R^{l}$ を終域とするベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ は $l$ 個の実関数 $f_{1}, \dots, f_{l} : A\to \R$ の組 $f = (f_{1}, \dots, f_{l})$ として表され各 $f_{k}$ は具体的には第 $k$ 成分への射影 $\pr_{k} : \R^{l}\to \R$ との合成 $\pr_{k}\circ f$ です。、以下が成立します。

命題1.8.33

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ が与えられたとし、点 $a\in \overline{A}$, $b = (b_{1}, \dots, b_{l})\in \R^{l}$ を取る。このとき、次は同値である。

(1) 極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立する。
(2) ベクトル値関数 $f$ を終域の成分ごとに $f = (f_{1}, \dots, f_{l})$ と実関数の組として表すとき、各 $f_{1}, \dots, f_{l}$ に対して極限 $\underset{x\to a}{\lim}f_{k}(x) = b_{k}$ が成立する。
証明

(1) ⇒ (2) 正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。仮定よりある正実数 $\delta > 0$ であって $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $\|f(x) - b\| < \varepsilon$ が成立するものが取れます。第 $k$ 成分について、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $|f_{k}(x) - b_{k}| < \|f(x) - b\| < \varepsilon$ なので $\underset{x\to a}{\lim}f_{k}(x) = b_{k}$ が成立します。

(2) ⇒ (1) 正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。仮定よりある正実数 $\delta > 0$ であって $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して\[|f_{k}(x) - b_{k}| < \dfrac{\varepsilon}{\sqrt{m}} \ (1\leq {}^{\forall}k\leq m)\]となるものが取れます。このとき、$\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して\[\|f(x) - b\| = \left(\sum_{k = 1}^{m}(f_{k}(x) - b)^{2}\right)^{1/2} < \varepsilon\]であり、$\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ が成立します。

別証明

命題1.8.31より、次の同値性を示せばよいです。

(i) $a\in \overline{A}$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対して極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}f(x_{n}) = b$ が成立する。
(ii) $a\in \overline{A}$ に収束する任意の $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ と $1\leq k\leq l$ に対して極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}f_{k}(x_{n}) = b_{k}$ が成立する。

しかし、これは $\R^{l}$ の点列の収束性及び収束値を成分ごとに考えてもよかったこと $($命題1.7.11$)$ から明らかです。$($最初の証明でした議論は、実は既にしたことでした。$)$

命題1.8.34
(成分ごとの連続性)

部分集合 $A\subset \R^{m}$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ について次は同値である。

(1) ベクトル値関数 $f$ は連続である。
(2) ベクトル値関数 $f$ を終域の成分ごとに $f = (f_{1}, \dots, f_{l})$ と実関数の組として表すとき、各 $f_{1}, \dots, f_{l}$ はいずれも連続である。
証明

$A$ の各点で命題1.8.33を適用すればよいです。

連続関数どうしの合成がまた連続関数になることを見ておきます。比較のため、連続性の定義に従った証明と開集合系による言い換えに従った証明の $2$ 通りを書いておきます。

命題1.8.35
(合成関数の連続性)

$A$ を $\R^{n}$ の部分集合、$B$ を $\R^{m}$ の部分集合とする。ベクトル値連続関数 $f : A\to \R^{m}$, $g : B\to \R^{l}$ が $f(A)\subset B$ を満たしているとき、その合成として定義されるベクトル値関数 $g\circ f : A\to \R^{l}$ は連続である。

証明1

$a\in A$ とし、正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$g$ の $f(a)\in B$ における連続性より、正実数 $\delta' > 0$ であって $\|y - f(a)\| < \delta'$ を満たす任意の $y\in B$ に対して $\|g(y) - g(f(a))\| < \varepsilon$ となるものが取れます。この $\delta'$ に対して $f$ の $a\in A$ における連続性から、ある正実数 $\delta > 0$ であって $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ に対して $\|f(x) - f(a)\| < \delta'$ となるものが取れます。この $\delta$ に対して $\|x - a\| < \delta$ を満たす任意の $x\in A$ は $\|f(x) - f(a)\| < \delta'$ と $f(x)\in B$ を満たすので $\|g\circ f(x) - g\circ f(a)\| < \varepsilon$ を満たします。よって、$g\circ f$ は連続です。

証明2

$W\subset \R^{l}$ を開集合とし、開集合 $U\subset \R^{n}$ であって $A\cap U = (g\circ f)^{-1}(W)$ となるものを構成すればよいです。まず、$g$ の連続性から $\R^{m}$ の開集合 $V$ であって $B\cap V = g^{-1}(W)$ となるものが取れます。また、$f$ の連続性から $\R^{n}$ の開集合 $U$ であって $A\cap U = f^{-1}(V)$ となるものが取れます。このとき、\[(g\circ f)^{-1}(W) = f^{-1}(g^{-1}(W)) = f^{-1}(B\cap V) = f^{-1}(V) = A\cap U\]です。

1.8.4 実関数の連続性に関する例
Euclid空間の正規性

まずは、Euclid空間 $\R^{m}$ の部分集合 $A$ に対し、$\R^{m}$ の各点から $A$ までの距離を表す関数が連続であることを示します。

定義1.8.36
(部分集合の間の距離)

(1) 部分集合 $A, B\subset \R^{m}$ に対し、その距離 $d(A, B)$ を\[d(A, B) := \inf\{d(x, y)\mid x\in A, \ y\in B\}\]と定める。$d(\{x\}, B)$ などは単に $d(x, B)$ と書くもちろん、もとの $2$ 点間の距離 $d(x, y)$ と集合間の距離 $d(\{x\}, \{y\})$ は一致しています。
(2) 部分集合 $A\subset \R^{m}$ と正実数 $r > 0$ に対し、$A$ の $r$ 開近傍 $O_{r}(A)$ を\[O_{r}(A) := \{x\in \R^{m}\mid d(x, A) < r\}\]により定める。$r$ 閉近傍 $D_{r}(A)$ も同様に\[D_{r}(A) := \{x\in \R^{m}\mid d(x, A) \leq r\}\]より定める。
補足1.8.37

(a) $O_{r}(A) = \Int (D_{r}(A))$ とは限りません。$A$ が単位球面 $S^{m - 1}$ かつ $r = 1$ のとき、\[\Int (D_{1}(S^{m - 1})) = \Int (D_{2}(0)) = O_{2}(0)\neq O_{2}(0)\setminus \{0\} = O_{1}(S^{m - 1})\]です。
(b) $A, B$ のうち一方でも空集合の場合は $d(A, B) = \inf \varnothing = +\infty$ と解釈します。
(c) 任意の正実数 $r > 0$ に対して $O_{r}(\varnothing) = D_{r}(\varnothing) = \varnothing$ です。というのは、$x\in \R^{m}$ に対して $d(x, \varnothing) = +\infty \leq r$ は成立しえないからです。
(d) 一応、$r = 0, +\infty$ の場合も同様に $O_{r}(A), D_{r}(A)$ を定義しておくとします。例えば、\[O_{0}(A) = \varnothing, \ D_{0}(A) = \overline{A}, \ O_{+\infty}(\varnothing) = \varnothing, \ D_{+\infty}(\varnothing) = \R^{m}\]です。
命題1.8.38

空でない部分集合 $A\subset \R^{m}$ を取り、写像 $f : \R^{m}\to \R$ を\[f(x) := d(x, A)\]により定める。$f$ は連続であり、$f^{-1}(0) = \overline{A}$ が成立する。従って、任意の部分集合 $A\subset \R^{m}$ と正実数 $r > 0$ に対してその $r$ 開近傍 $O_{r}(A)$ は開集合であり、$r$ 閉近傍 $D_{r}(A)$ は閉集合である。

証明

各点 $a\in \R^{m}$ での連続性を確かめます。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。正実数 $\delta := \varepsilon$ について $\|x - a\| < \delta\Rightarrow |f(x) - f(a)| < \varepsilon$ が成立することを示せば十分です。$\|x - a\| < \delta$ とします。任意の $y\in A$ に対して $\|x - y\| < \|x - a\| + \|a - y\|$ であることから $\{\|x - y\|\mid y\in A\}$ の下界が $\{\|x - a\| + \|a - y\|\mid y\in \R\}$ の下界でもあることに注意して\[f(x) = d(x, A) = \inf\{\|x - y\|\mid y\in A\}\leq \|x - a\| + d(a, A)\leq \|x - a\| + f(a)\]であり、また、$\|a - y\| - \|x - a\|\leq \|x - y\|$ であることから同様に\[f(a) - \|x - a\| = d(a, A) - \|x - a\|\leq \inf\{\|x - y\|\mid y\in A\} = d(x, A) = f(x)\]です。以上より $\|x - a\| < \delta$ となる $x$ に対して\[|f(x) - f(a)|\leq \|x - a\| < \delta = \varepsilon\]であり、$f$ は $a$ において連続です。つまり、$f$ は連続です。

定義から容易に分かるように、$f(x, A) = 0$ であることと任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して $\|x - y\| < \varepsilon$ となる $y\in A$ が存在すること、つまり、$x$ が $A$ の触点であることとは同値なので、$f^{-1}(0) = \overline{A}$ です。

$f$ の連続性が分かったので、$O_{r}(A) = f^{-1}((-\infty, r))$ は開集合であるし、$D_{r}(A) = f^{-1}((-\infty, r])$ は閉集合です。

系として、まずは非交叉な閉集合と有界閉集合の間の距離が正値であること、それらが開集合で「分離」できることを示します。

系1.8.39
(閉集合と有界閉集合の分離)

$A$ を $\R^{m}$ の閉集合、$K$ を $\R^{m}$ の有界閉集合とし、$A\cap K = \varnothing$ とする。このとき、$d(A, K) > 0$ であり、$\R^{m}$ のある開集合 $U, V$ であって $A\subset U$, $K\subset V$, $U\cap V = \varnothing$ を満たすものが存在する。

証明

$A, K$ の一方でも空集合である場合は自明なので、$A, K\neq \varnothing$ とします。連続写像 $f : \R^{m}\to \R : x\mapsto d(x, A)$ を考えます。$f$ の連続性から $f|_{K}$ はある点 $k\in K$ において最小値 $l$ を取ります。$l = d(k, A) = 0$ とすると $k\in \overline{A}\cap K = A\cap K$ となって矛盾するので $l > 0$ です。また、$d(A, K) = l$ が容易に分かります。そこで、$U, V$ をそれぞれ $A, K$ の $l/3$ 開近傍に取れば主張の条件を満たす開集合系になります。$A\subset U$ と $K\subset V$ は明らかです。$U\cap V = \varnothing$ を示します。$x\in U$, $y\in V$ とします。$a\in A$ と $k\in K$ をそれぞれ $\|x - a\|, \|y - k\| < l/3$ となるように取るとき$d(x, A) < l/3$ なので、$a\in A$ であって $d(x, A)\leq d(x, a) < l/3$ を満たすものが存在します。$k$ についても同じです、\[0 < l/3 = l - (l/3 + l/3)\leq \|a - k\| - (\|x - a\| + \|y - k\|)\leq \|x - y\|\]です。よって、常に $x\neq y$ なので $U\cap V = \varnothing$ です。

さらに、非交叉な閉集合どうしは開集合で分離可能です。$($正規性といいます。一般の位相空間における正規性は2.3.3節で紹介します。$)$

系1.8.40
(Euclid空間の正規性)

$A, B$ を $\R^{m}$ の閉集合とし、$A\cap B = \varnothing$ とする。このとき、$\R^{m}$ のある開集合 $U, V$ であって $A\subset U$, $B\subset V$, $U\cap V = \varnothing$ を満たすものが存在する。

証明

各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $A_{n} := A\cap D_{n}$, $B_{n} := B\cap D_{n}$ と定め、系1.8.39により正実数\[r_{n} := \min\{d(A_{n}, B), d(A, B_{n}), 1\}\]を取ります$1$ を加えたのは $A_{n} = B_{n} = \varnothing$ の場合に $r_{n} = +\infty$ となるのを防ぐため。。$A_{n}$ の $r_{n}/3$ 開近傍を $U_{n}$ とし、$B_{n}$ の $r_{n}/3$ 開近傍を $V_{n}$ とします。$U := \bigcup_{n\in \N_{+}}U_{n}$ と $V := \bigcup_{n\in \N_{+}}V_{n}$ が $A, B$ を分離する開集合であること、つまり、$A\subset U$, $B\subset V$, $U\cap V = \varnothing$ を満たすことを示します。

$A\subset U$, $B\subset V$ であることは明らかなので、$U\cap V = \varnothing$ を示せばよいですが、そのためには任意の $k, l\in \N_{+}$ に対して $U_{k}\cap V_{l} = \varnothing$ を示せば十分です。対称性から $k\leq l$ として問題ないです。$x\in U_{k}$, $y\in V_{l}$ とします。$a\in A_{k}$ を $\|x - a\| < r_{k}/3$ となるように取り、$b\in B_{l}$ を $\|y - b\| < r_{l}/3$ となるように取ります。このとき、\[0 < r_{k}/3\leq r_{k} - (r_{k}/3 + r_{l}/3)\leq \|a - b\| - (\|x - a\| + \|y - b\|)\leq \|x - y\|\]であり$A_{n}, B_{n}$ が単調に大きくなっていくことから $r_{n}$ が広義単調減少であり、$k\leq l$ から $r_{k}\geq r_{l}$ です。$\|a - b\|\geq r_{k}$ は $a\in A_{k}$, $b\in B$ と思えば $r_{k}$ の定義から分かります。、常に $x\neq y$ なので $U_{k}\cap V_{l} = \varnothing$ です。

以上です。

メモ

なし。

参考文献

[1] 杉浦光夫 解析入門Ⅰ,Ⅱ 東京大学出版会 (1980)

更新履歴

2021/11/21
新規追加
2021/12/02
誤植を修正。
2022/01/02
Euclid空間の正規性についての説明を追加。
2022/04/02
他ページの記述修正に付随する修正。
2022/04/17
線形を線型に統一。
2023/08/02
全体的に記述を見直し。軽微な誤植の修正。
2023/12/02
右連続と左連続の定義を追加。
区間の連続像が区間になることを追加。(有界閉区間の連続像が有界閉区間は書いていたが…)
2025/11/02
関数の極限が正負の無限大に発散することの定義を $($同値なものではあるが$)$ 少し変更。
左右極限についての補足をきちんとした定義に分離。上下極限の定義を追加。
点 $a$ における連続性の定義を $\lim f(x) = f(a)$ の成立から $\lim f(x)$ の存在に変更。
連続・不連続に関する例として、簡単なものを追加。Dirichlet関数とThomae関数も追加。
左右連続性と上下半連続性について追加。定義域という用語を始域に変更。
中間値の定理の証明の不備を修正。
全体的に表現を修正。その他、軽微な誤植を修正。